思考

NECによる債務超過の英国ITサービス会社のM&Aは価値があるのか検証してみる〜財務分析編

今日は今週の日経にNECによる
英国でのM&A実施のニュースがありました。

これによって、
M&Aでの価値創出が
本当に可能なのか?
をみていきます。

今回はやたら
小難しく考えるのではなく、
シンプルに財務分析だけしていきます。

 

買収の概要は?

会社発表資料ではこんな感じで書いている程度です。

NECは、海外でのセーフティ事業拡大を加速するため、

英国のITサービス企業Northgate Public Services Limited(本社:英国Hertfordshire州Hemel Hempstead、CEO:Stephen Callaghan、以下 NPS)を、投資ファンドCinvenから4億7,500万ポンド(約713億円)で買収します。

買収完了時期は本年1月末を予定しています。

 

シンプルに考えると、
713億円を払って、
売上245億円(GBP163M)の

イギリスのITサービス会社の株を
買ったというだけの話です。

 

これが713億円の価値があるのか?

というところがポイントで、

いったい、この会社を買うことで、
どんなリターンがあるのか?
という話です。

 

後述しますが、

買収スキームはもう少し複雑である可能性が高いです。

おそらく、既存株主である投資ファンドがLBO(Leveraged Buy Out)して

この会社を買収したため、該当会社に借入金が大量に残っています。

 

今回の売買によって

買収ファンドが受領する資金713億円は、

株式相当分と借入金相当分に分かれていて、

今回の713億円のうち、

相当額は借入金の返済に回されるのではないか

と思われます。

 

まずはPLとCFから買収の価値を考えてみると、

 

まず、会社発表のプレゼン資料では、
売上に対するEBITDA率が21.5%としています。

そうすると、54億円くらいのEBITDAということになる。

 

EBITDA=Earnings Before Interest & Tax & Depreciation & Amortization
要は当期利益+金利+法人税+償却費=EBITDA
でして、イメージ的にはビジネス面で生み出される実力はどうかを見ているわけです。
営業CFに近いかなと。(法人税や金利をのぞいた)

 

次に、買収対象会社のAnnual ReportのPLを見てみます。

これ、かなり見にくいので、エクセルでまとめてみました。

ついでに円換算もします。

 

なんと営業利益は6億円の赤字で、

当期利益は62億円の赤字です。

めちゃくちゃ財務状況悪い会社じゃんか!!

ただし、OPが赤字ではあるものの、
特別損失12億円(GBP8M)が営業損失にヒットしている
日本基準と異なります。

これを戻すと、
営業利益は6億円程度(GBP3.8M)となります。

当期利益が大幅に落ちている理由は、
借入金が多く、毎年の支払い金利が
なんと60億円(GBP40.1M)もあるからである。

BSを見ると約600億円(GBP390M)もの借入金がある。

 

いやー、これは間違いなく金に困っている会社ですね。

こンなんで本当にEBITDA率が21.5%もあるの?

というわけですが、

当期損失61億円に

償却費47億円、金利費用60億円、特別項目8億円、法人税5億円を足し戻すと、

調整後EIBITDAは57億円になります。

 

うーん、会社発表のEBITDAとだいたい合ってるか。

なるほど。

 

EBITDA倍率にするといくらになるのか?

700億円/57億円=12倍

なるほど。

 

では、

本来的に流入してくる営業CFがどれくらいか?

金利コストは債務が消えてなくなるという前提で、

調整後EBITDA57億円に法人税5億円を引いたものが

営業CF相当だとすると52億円となる。

 

で、ここに毎年どの程度の投資が必要になるのか?

 

これまでの投資CFのうち、

毎年30億円(GBP20M)くらいが

IntangibleとTangibleの投資で

キャッシュアウトしているので、

営業CF52億円 – 投資CF 30億円=FCF22億円

くらいが、スタンドアローンでの価値か。

 

現状維持であれば、

713億円を22億円で割ると34年で回収できることになる。

というのがシンプルな考え方になる。

 

こりゃー長いね。

やはり買収によってシナジー効果を見込まないと

とても買収の価値がないレベルと言える。

次に、BSをチェックしてのれんを見積もってみる

会社発表資料にBSデータは一切載っていなかったので、

これもAnnual Reportから抜粋します。

これまたごちゃごちゃしているので、

エクセルでまとめなおしました。

 

で、

おお、146億円もの債務超過!

のれん846億円=買収金額700億 – 債務超過額△146億円

となる。

(PPAはのれんと同等として省略します)

 

しかし、NECの役員は会見で下記のように言っているようです。

今回の買収により、NECの買収資金で債務が劇的に減少。債務超過から脱する見込みだ

この発言は重要です。

 

713億円によって株式の取得が発生すると同時に、

買収先から借りた借入金をチャラにするということなのだろう。

それが買収スキームに組み込まれていると思われます。

仮に全額だとすると584億円がチャラになるということです。

 

のれん262億円=買収金額700億 – 債務超過額△146億円 – 借入金解消584億円

 

このように、のれん発生額も変わってくるからね。

こんなに巨額ののれんが本当に回収できるのだろうか?

これも結局は割引後の現在価値で回収できるのか?

という考え方になる。

 

それともう一つ気になるのは、

ノースゲート自体が抱えているのれんである。

これが、351億円もある。

 

一体、こののれんはいつ発生したのだろうか?

Notesに減損テストをやったが問題なしだった。

と、

Annual Reportに記載されているが、

こんなに大きいのれんが

現状のOPレベルで回収できるとなるはずがなく、

将来成長率を大きくしているものと想定される。

 

 

いやー、重たい資産ばかりが増えてしまうM&Aだなと

思いますが、果たして回収できるのか?

買収の効果とリスクについては

次回に見ていきます。

 

ここにM&Aの肝があり、価値創出ができれば、利益改善ができて

買収の効果が出てくるわけですが、

ほとんどのM&Aはそのような効果を出せずに終わっています。

 

というわけで、

今日は終わりです。
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僕は大学卒業してからも プラプラとニートをしてました。

ですが、その後USCPAを取得したり転職活動をして

今では一部上場企業で決算などはやらずに複数のプロジェクトを回したり、海外出張にいきまくるなどしてます。

年収も1000万を超えました。

 

今後はファイナンススキルとプロジェクトマネジメントスキルを武器にして、

CFOになろうと日々色々と学び、行動しています。

 

このブログのコンセプトは、 “Beyond The Finance” といいます。

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こんにちはゲンタといいます。

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<昔>
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↓その後、改善施策を実施

<今>
・海外CFO
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